超奇跡ロボ「カノンゲイザー」


 えいえんの世界より現れた「だよもん星人」たちの攻撃の前に、地球人類は危機に瀕していた。だよもん星人の持つ「永遠」の力に対して人類のあらゆる兵器は無力だった。

 そんなとき、天才科学者「北川博士」が「永遠」の力に唯一対抗できる超エネルギー「奇跡」を発見した。彼はその「奇跡エネルギー」を用いて、だよもん星人たちを打ち破る究極のロボットを完成させたのだ。

 その名は「カノンゲイザー」!

 この物語は、だよもん星人の「地球永遠化計画」の魔の手から人類を救うべく戦う少年少女たちの、愛と勇気と奇跡の物語である。


 主題歌「カノンゲイザー ゴー!」

 作詞・相沢裕一

 みっつの願いを人形に込め

 エンジェルウイング 空高く

 みたか 合体 カノンゲイザー

 うぐぅ! うぐぅ! ミラクルうぐぅ!

 みっつの心がひとつになれば

 ひとつの願いは奇跡のパワー

 悪をゆるすな ミラクルパンチ

 うぐぅ うぐぅ ミラクル

 カノンゲイザー


 第1話「みっつの願い」

 奇跡力研究所。奇跡エネルギーを発見した北川潤博士の研究所である。彼は世紀の天才Dr佐祐理の高弟で、十七歳にして幾多の博士号を持つ有名な科学者なのだ。

「それで北川君、カノンゲイザーのパイロットが決定したって本当なの?」

 助手の美坂香里の質問に北川博士は力強く頷いてみせた。

「きみもよく知っている三人だよ。ところで香里君、その「北川君」って呼び方やめてくれないかな」

「だって北川君は北川君でしょ?」

「いや、そりゃそうだが……」

 一応これ、スーパーロボットものなんだから――と思ったものの、香里に気がある北川博士は何も言えなかった。

「じゃあ、ジュン君って呼ぶ?」

「……某戦艦アニメを連想してしまいそうだから、やっぱり北川君でいいや」

 結局それで落ち着いたところへ、オペレーターの天野美汐が透明な声で報告を始める。

「北川博士、例の三人が到着しました」

「そうか、入ってもらってくれ」

 数分後、室内に三人の男女が入ってきた。

 一人はどこにでもいそうな風貌の青年。

 一人は赤いカチューシャ、ダッフルコートに羽つきリュックという、ちょっとかわった服装の少女。

 一人は茶色いチェックのストールを羽織った、透き通るような白い肌の少女。

「紹介しよう香里君。左から順に、相沢祐一君。月宮あゆ君。美坂栞君だ」

「……知ってるわよ。友達と妹なんだから」

「……」

 北川博士はちょっと悲しそうだった。

「それより北川君。栞がパイロットだなんて聞いてないわよ」

「私も初めて知りました」

「こらこらっ。栞君には事前に通知しておいただろっ」

 北川博士のツッコミに栞は「冗談です」と微笑み返した。

「栞もどうしてパイロット志望したの?」

「夢だったの……アニメみたいにスーパーロボットに乗って、地球を守るために戦うことが」

「栞ちゃんは今放映されてるロボットアニメは全部見てるんだよね」

 あゆのフォローはどこか説明くさい。

「そう……栞がそこまで決意してるなら、もう何も言わないわ」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 がっしと抱き合う二人。

「くっ、美しき姉妹愛だな」

「ボク、感動のあまり、たい焼き二個食べちゃったよ」

「お前たち、誰か突っ込むやついないのか」

 残念ながら誰もいなかった。



「さて、これが君たちの乗る分離飛行形態機カノンマシンだ」

 格納庫に案内された三人の前に、異様なフォルムをした三つの機体があった。祐一たちの間から軽いざわめきが漏れる。

「左の機体が祐一君の乗る「ブッシュ斎藤号」で、真ん中のがあゆ君の乗る「ハイパーうぐぅ号」。そして右が栞君の「ジャンボミックスパフェデラックス号」だ」

「最低」

 意気揚々と説明する北川博士の横で、香里が声には出さずに呟く。無論、ネーミングセンスのことである。

「するとボクの機体って、ハイパーうぐぅ斬りとか使えるのかな?」

「それは別の作品だろ」

 あゆの素朴な疑問に祐一は首を振るが、栞は嬉しそうにこう言った。

「でもそれも、ちょっとかっこいいですね」


 たい焼き天使「アユバイン」

 主題歌「アユバインとぶ」

 作詞・月宮あゆ

 うぐぅロードが開かれた

 きらめく光 ボクをうつ

 うぐぅの力 たくわえて

 ひらいたつばさ 夢を翔ぶ 

 おそれるな ボクのこころ

 かなしむな ボクの願い

 クレーンゲームの 天使の人形

 最後の願い きせきをおこす

 夢の中から 目覚めたとき

 うぐぅバトラー アユバイン

 うぐぅシュート! アユバイン

 食い逃げ 食い逃げ 食い逃げ

 ボクは天使


「勝手に話を脱線するなーっ!!」

 北川博士のツッコミの直後、非常警報が鳴った。

「敵〜、敵だよ〜。各機準備して戦闘行くよ〜」

「何ぃ! 敵襲だと!?」

 やる気を埋没させるような警報にも、北川博士はオーバーリアクションで対応する。呆れ顔の香里助手、無表情な天野オペレーターの視線など気にもせず、北川博士は天を指差した。
 
「よーし、三人とも出動だ! カノンマシンの三機合体でカノンゲイザーに合体だ!」



 奇跡力研究所に近付く巨大なロボット。それは三体の永遠獣と、それらを従えているらしい人型機動兵器の姿であった。

「はっはっは、俺の名は住井。永遠皇帝みずか様の信任厚き、えいえんの世界きっての闘将だ! 人間が束になってかかったとて、我らだよもん星人の前には無力だという事を教えてやる」

 どうやら敵の幹部が直々にやってきたようだった。今まさに奇跡力研究所へと、その魔の手が伸びようとしたそのとき!

「そこまでだ!」

「ぬっ、何奴!?」

 絶妙のタイミングで三機のカノンマシンが登場。そのまま三方向から一直線に中心へと飛来した瞬間、眩い光が機体を包み込む。

 そして!

「超奇跡ロボ、カノンゲイザァァーッ!!」

「な……何だと!?」

 住井の眼に映ったのは、天使の人形の姿をした巨大なロボットが大地に降り立つ様だった。研究所内のモニターでそれを見た香里はぽつりと口にした。

「ねえ北川君……あの三機のどこをどう合体させたら、あんなロボットになるの?」

 北川博士はフッと笑った。

「甘いな香里君。スーパーロボットの合体に理屈など不要なのだ!!」

「そ、そうなの?」

 香里はショックを受けたようだった。

 そんなやりとりとは別に、祐一がメインコクピットから敵に向かって叫んだ。

「世のため人のため、だよもん星人の野望を打ち砕くカノンゲイザー! この奇跡の輝きを恐れぬなら、かかってこい!!」

「素敵です、祐一さん」

「格好いいよ、祐一君。でも、どこかで聞いた事のあるようなセリフだね」

「ええい、ゆけっ永遠獣!」

 あゆの疑問などお構いなしに、王道パターン通りな命令を受けたグリズリー型永遠獣が地を蹴って突進してくる。

「いくぞ、奇跡の拳を受けてみろ! ミラクルパーンチ!!」

 気合とともに放たれたカノンゲイザーの拳は、一撃で永遠獣の胸を貫いた。

「ば、ばかなっ」

 驚いたのは住井だ。

 だよもん星人は「永遠」の力に護られているため、相手のあらゆる攻撃を無効化してしまう。しかし、カノンゲイザーの「奇跡」エネルギーはその「永遠」の力を中和してしまうのだ!

 凄まじい爆発音とともに消滅する永遠獣。住井の怒りの声が響く。

「おのれ! だがそのロボットではリーチのある攻撃は出来まい。行け、永遠獣その2!」

 その2扱いされた犬型永遠獣がカノンゲイザーに襲い掛かる。確かに、これならミラクルパンチは届かないだろう。

 だが。

「栞君、チェンジするんだ!」

「はい。チェンジ・ミラクル2!」

 北川博士に元気よく返事し、カノンゲイザーのメイン操縦が栞のコクピットへ移る。同時に、機体がオレンジ色の光を放ちながら巨大な雪ダルマ型ロボットに変形した。

「……非常識だわ」

 もはや香里はうぐぅの音も出ない様子。

「いきます。必殺、大雪玉落としっ」

 瞬間、中空にとてつもなく大きな雪玉(石入り)が現われ、すごいスピードで落下。

 ぐしゃ。

 哀れ犬型永遠獣は跡形もなく崩れ去った。

「おのれっ! ならば空からだ!!」

 と、いう訳で鳥型永遠獣が空中から高速で飛びかかってきた。

「それならボクの出番だね。チェンジ・ミラクル3っ!」

 オレンジ色の発光とともに、雪ダルマがどでかいたい焼きに変形。

「いくよっ、こしあんキャノン!」

 ばごんっ!

 たい焼きの口から放たれた、こしあんの塊は、一撃で鳥型永遠獣を粉砕した。残るは住井搭乗機だけである。

「ふん、来るがいい」

 住井の機体がふわりと飛翔する。それに狙いを定めようとするあゆだったが――

「やっぱり最後は主人公の出番だな、チェンジ・ミラクル1!」

「え、ちょ、わあっ!」

 何やら鈍い音と同時に機体が天使の人形へと変わる。有無を言わさず。

「ひどいよ祐一君。いきなりチェンジするからコクピットに鼻の頭をぶつけちゃったよ!」

「悪い、これも主人公の活躍のためだ」

「ぜんっぜん、理由になってないよっ」

「という訳で、エンジェルウイング!」

 強引に会話を打ち切って、カノンゲイザーを飛翔させる祐一。きらめく陽光を受け、天使の翼が空を舞った。

「喰らえ、ミラクルパーンチ!」

 唸る必殺の拳。加速をつけて放ったそれは、しかし目標の寸前で見えない壁に阻まれたかのように停止してしまった。

「なにっ!?」

「ふふふ、この「えいえんフィールド」の前にそんなものが通用するものか!」

 バシッ、と弾かれるカノンゲイザー。その衝撃が祐一たちの体を包み込む。

「天野君!」

 北川博士が天野のほうを向く。すでに彼女はモニターによる分析を終えていた。

「はい。どうやら「永遠」の力を集めた全方位障壁のようなものです」

「……となると、もはやアレを使うしかなさそうだな」

 何かを決意した北川博士が、インカムに向かって声を出す。

「祐一君。最強の必殺技、ミラクルシャイニングを使うんだ!」

「必殺技? どうすればいいんだ」

「三人それぞれのコクピットに赤いボタンがあるだろ。それを三人同時に押せばいい」

 なんとも単純な説明だった。見ると、確かに自分たちのコクピット内に真っ赤な丸ボタンがある。

「これか。ところで、もし三人同時にボタンを押すのを失敗したらどうなるんだ?」

「そ、それは……」

 軽い気持ちで訊いてみたのだが、なぜか北川博士は言葉を閉ざした。

「……」

 何となく嫌な予感がした祐一は、質問の矛先を変えてみた。

「なあ栞。アニメではこんな場面だと、失敗したらどうなるんだ?」

 少しの間を置いて、返事がきた。

「ありがちですけど……爆発します」

「!」

 祐一とあゆが驚きの表情をあらわす。

「それは……確かに、ありがちだな」

「はい。でも、そういうお約束、私は嫌いじゃないです」

 静かに言った栞の言葉が、祐一に勇気を奮い立たせる。同時に、あゆにもその思いは伝わった。

「よーし、いくぞ! みっつの心をひとつに合わせるんだ!!」

「はい!」

「うんっ」

 勝利への道しるべ、それは勇気。三本の指先は、まったきひとつへと。

「うっ」

 不治の病、発動。

 栞が口元をおさえ、動きを止める。

「え?」

 瞬間、祐一とあゆが真っ白に固まった。二人の指先は、見事に赤いボタンにめり込んでいた。

 同様に。北川博士と香里が大口を開けて硬直し、天野までもが唖然と、研究所内も白一色に染まった。



 起こらないから奇跡っていうんですよ



 どっかあぁぁぁん!!

 その爆発は、まるで冬の花火のように綺麗で、儚かった。

「栞―っ!!!」

 香里の悲痛な叫びが時間を取り戻す。

「はははは! 何だかよくわからないが、とんだ欠陥品だったようだな」

 住井の高笑いが響く。香里が、がっくりと膝をついた。

「あの子、何のために生まれてきたの……」

「くっ、もはやこれまでか」

 北川博士が敗北を予感したそのときだった。

 カッ!

 爆炎の中から、目を覆わんばかりの光が放出したのである。

「ぬおおーっ、何事だっ!」

 あまりの輝きに住井がひるんだ。

「何だ? 何が起こっている!?」

 北川博士も何が起こっているのか見当がつかない。分析を始めた天野が驚きの声をあげた。

「これは……! 奇跡エネルギーです。膨大な量の奇跡エネルギーが爆炎の中心から溢れ出ています!」

「なにっ!?」



 目が覚めると、そこはオレンジ色の世界だった。周りを見ても何もなく、ただただ夕焼けのような鮮やかな色彩が広がっているだけだ。

「ここどこ。ボク、どうしたのかな?」

 きょろきょろとあたりを見回すあゆの前に、突然何かが現われた。

「わっ」

 びっくりして慌てふためく彼女の前に現われたのは、頭にチェックのリボンをつけたロングヘアーの綺麗な少女だった。

「あははーっ。驚かせちゃったようですねー。でも佐祐理は幽霊さんじゃありませんよ」

「えっ!?」

 よく見ると、少女は三次元立体映像であった。

「このシステムが作動したということは、何か大ピンチに見舞われたんですね?」

 屈託のないエンジェルスマイルは、あゆに警戒心を解かせるには十分だった。

「う、うん。でもどうしてそんなこと知ってるの?」

「あははーっ。佐祐理はカノンゲイザーの設計者ですよーっ、知っててあたりまえです。それより今は大変な状況なんじゃないんですか?」

「あっ。そ、そうなんだよ」

 目の前の少女がカノンゲイザーの設計者だというのも驚いたが、それ以上に今は一大事であるのも事実だった。

「わかってますよ。そんな時のために、このカノンゲイザーには切り札を用意してありますから」

「切り札?」

「三回まで、人が運命と呼ぶ因的要素……因果律の輪を、奇跡エネルギーを使うことで自在にすることが出来るんですよ」

「何が何だかわからないよ」

 あゆには理解不能だった。

「あははーっ。要するに、三つまでならどんな願いでもかなうということですよーっ」

 その言葉にあゆは目を見開いた。


 どんな願い事もかなうの?

 はい。三つまでならですよ

 本当に?

 佐祐理は嘘なんかつきませんよー

 本当にほんと?

 本当にほんとですよ

 本当に本当にほんと?

 本当に本当にほんとですよーっ

 だったら……

「ボクのお願いは」



 ぶわぁっ。

 一瞬にして煙が吹き飛び、澄み渡る青空の中より巨大な天使が神々しく現われた。

「おおっ!」

 北川博士らが信じられないといった表情で驚く。だが、確かに祐一たち三人の生体反応を感知センサーが告げていた。

「まさに奇跡」

「奇跡――そんな馬鹿な!」

 住井の驚愕の叫びが空に響く。カノンゲイザーの全身が光り輝いていった。

「よーし、いくぞ!」

 祐一の声に栞とあゆが笑顔でうなずく。

「みっつの」

「こころが」

「ひとつになれば」


「ミラクルシャァァイニィィィィング!!!!」


 オレンジ色の閃光。

 易々とえいえんフィールドをぶち抜いたそれは、あっという間に住井の機体を飲み込んだ。そして爆発の炎。

「お、おのれっ。覚えていろ、カノンゲイザー!」

 あまりにもお約束なセリフとともに、脱出ポッドに乗った住井がジャンプアウトして撤退した。天に浮かぶカノンゲイザーの雄姿は、闇を照らす希望の光のように輝いていた。



 夕陽に照らされる奇跡力研究所前では、祐一と栞が恋愛ドラマのように向き合い、互いをじっと見つめていた。

「起きないから、奇跡って言うんですよ。でも私、嘘つきですよね」

「ああ、そうだ」

 祐一の手が栞の髪に触れる。栞はそっと、祐一の胸に顔を埋もらせるのだった。

「二人の愛に涙がうぐぅ。そんな感じだよ」

 遠巻きに見ていたあゆの訳のわからない感想には香里も苦笑した。その横で、天野もぽつりと感想を漏らす。

「確かに、意味合いによっては心を打つ光景に見えますね」

「そうだな」

 北川博士も同意し、さわやかに笑った。





 どこまでも続く蒼い空と白い雲。

 それは永遠。

 蒼穹の世界は、それすなわち「えいえん」の世界である。

「きせきのちから……わたしたちに抗えるほどの力なんだね?」

 白いもやに包まれた少女の声に、一人の青年がひざまずく。そして、再び少女の声が響く。

「カノンゲイザー……地球永遠化計画の大いなる障害になるかも知れないね」

「この住井にお任せを。必ずや、カノンゲイザーを滅ぼしてご覧に入れましょう」

「……まかせるよ、きみに。災いの種は早めに摘んでおくべきだからね」

 はっ! と青年、住井が立ち上がる。

「全ては永遠皇帝みずか様のために!」



 エンディング「雪の街に奇跡をこめて」

 作詞・美坂栞

 雪が積もる冬の街にそっと

 食い逃げしてたい焼きを食すひとよ

 時間という七年のさざ波は

 天使の人形に生まれた奇跡ね

 心にうずもれた三つのお願いが

 光放ち輝く

 夢の中彷徨う少女のように

 もう泣かないで

 いま奇跡を求めてる人がいるから

 最後のお願いだよ



 次回予告

「海に轟く大雪玉」

 研究所近くの浜辺で海水浴を楽しむ祐一たち。だがそこへ闘将住井の海戦機動兵器が襲いくる。

 海中ではミラクルシャイニングが使えない、どうするカノンゲイザー!?

 君のハートにミラクルシャァァイニィィィング!!

 ToBeContinued……?

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