夢源物語 ロリーとブランの旅

■ロリー・オキュレン

本編の主人公。知恵のいかない、空想癖のある十九歳の少年。

旅の道中における彼の発言や思考・行動の無垢な透明さが魅力的です。
鋳掛屋さんの言うとおり、心の卑しい人間には決して得られないものをもっているんです。
そしてだいじなそれはラストでしっかりと、子に受け継がれていることがわかります。


■ブラン

もう一人の主人公。ロリーさんの親友にして同行者。

セリフが一切ないのが特徴です。作者が意味をもってそうしたのでしょう。
ロリーさんとの考え方の違いと絶妙な信頼関係が面白いです。
中盤以降は鋳掛屋さんの登場により影が薄くなりますが、その存在感は決して揺らぎません。


■オリアナ・ライアン

本編のヒロイン。ロリーさん同様に知恵遅れで空想癖のある、十六歳の少女。

彼女とロリーさんの出会いは、ふたりにとって、現実の光と最も幸福な結末への調和そのもの。
愛という錬金術がロリーさんを正気に導くというところが肝要ですね。


■ファーガン

道中で出会う調子のいいジョッキー。

ロリーさんを騙していろいろ掠め取る、盗人にして詐欺人。
根っからの悪人ではないようで、悲痛なオリアナさんのまえでは純粋な慈悲に支配され、彼女を助けるために一役買っています。
さすがに結婚式には招待されませんでしたけど。


■オハリガン

アイルランドの国王を自称する世捨て人。

初めはロリーさんの牛を奪おうとする悪役として登場します。
後にジョッキーや鋳掛屋さんと仲良くなり、オリアナさん救出に協力してくれます。
ラストで鋳掛屋さんが正気に戻ったことを知ると、彼も普通の人に戻ります。


■鋳掛屋

アイルランドの放浪者。中盤以降の重要人物。

別名「瓶の船」。中盤から登場してロリーさんに哲学的な様々なことを教えます。
月が満ちると狂気の光を宿し、尋常でない自信と影響力を発散します。
満月の夜、オハリガンさんと協調して狂気が最高潮に達したとき、それを見たロリーさんに理性の光が燈り、彼をして「あまり空想に浸ってはいけないと思うんだ」と言わしめさせます。
ロリーさんが「道」の誘惑から遠ざかると、鋳掛屋さんから月の狂気は消え去るのです。
人は誰でも放浪の精神を宿している。私の放浪精神はアフリカの砂漠でオウルド・チアン山や メディアン山を眺めることで満たされていた。しかし次に、私の内なる放浪の魂は、私を机に 向かわせたのだ。私はひとつの作品にとりかかった。それは長編小説の長さであるが、それまでの作品と比べ、より詩に近いものであった。その仕事は詩のリズムを維持するための努力で あり、結果として、私の描きあげたその幻想作品は、詩の本質を宿したものとなった。そして それは非常に困難を極める仕事であったのだ。

 ――「夢源物語」訳者あとがき内 
    ダンセイニ自伝『セイレーンの眠る間に』の一節より


やや知恵遅れ気味ですが純粋で、童話や騎士の英雄物語が好きな空想癖のある十九歳の少年ロリーさんは、牛飼いとしてやっていけるかどうか、両親から十二頭の牛をグルトナルーナの市まで連れて行くことを任せられることに。親友ブランさんが同行することになり、こうしてロリー&ブランの「道」の旅が始まります。

道中、胡散臭いジョッキーや頭のおかしな自称城主、ロリーさんと同じく空想癖をもつ少女オリアナさん、アイルランドを放浪する鋳掛屋さんなど、様々な出逢いと出来事を体験しながら旅は続きます。結局グルトナルーナに到着したときには牛をすべて失っていて、理由を聞いた叔父さんから「おまえは牛飼いには向いていない」と言われてしまいます。強いショックと落胆に沈んだロリーさんですが、鋳掛屋さんとのやりとりで彼と共に放浪の旅に出ることになり ます。

そのさなか、オリアナさんが危機に陥っていることを知ったロリーさんは仲間と一緒に彼女を救い出すことに。そして少女への想いを自覚したとき、ロリーさんは、愛という錬金術の力で 、それまで彼に付き添っていた幻想の世界に別れを告げることになりました。伝説の騎士たちは現実にも宿り、地上世界も妖精郷と同様に美しいことを知ったから。それはまた、「道」か ら「家」へ還ることを意味していたのです。

アイルランドの自然の道、その旅を詩的に美しく描いたロード・ファンタジィ。
話自体は地味ですが、そこには多くの余情と浪漫が詰まっていて、読む者の心を捉えます。
日本では訳刊されていないこの素晴らしい作品に、同人翻訳という形でめぐり合わせてくれた 方々に感謝するほかありません。

ストーリー

※参考文献
「夢源物語 ロリーとブランの旅」(西方猫耳教会)

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登場人物

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