牧神の祝福
※参考文献
「牧神の祝福」(月刊ペン社)
■エルドリック・アンレル 本編の主人公。ウォルディング村に赴任した司祭。 村の人々を覆いつくしてゆく不可解な驚異に孤軍奮闘するがんばりやさん。 なにしろ助けを求めた教区側の人たちがまるでアテにならないからどうしようもないです。 身近な生活の暖かい夢よりも、太古よりの自然の夢のほうが強いところがこの作品の肝かと。 奥さんにまで寝返られて完膚なき敗北と絶望を味わった後、負けを認めて仲間入りすることで最後にようやく報われます。 ■オーガスタ アンレル司祭の妻。 不安や苦悩の聞き手役として夫の慰め的な役割を果たしています。 ひっそりとした暗さの本作においてこの夫妻の会話は一服の清涼剤ともいえます。 ■トミー・ダッフィン 牧神の申し子ともいえる少年。 谷川でつくった葦笛をウォルドの丘で吹くようになってから少しずつ神がかってきます。 途中からは牧神の使者みたいになり、彼本来の意思が存在しているのか疑問です。 |
登場人物
(エゴー パーン パントーン トーン ロポーン アルカディウー バシレウス) 「われは牧神(パン)、アルカディアの谷間の王……」 ――「牧神の祝福」(月刊ペン社)より 閑静な谷間の村ウォルディングの司祭アンレルさんの苦悩。 のどかでゆるやかな村にひっそりと響きわたる、遙かな郷愁の夢を運ぶ葦笛の音。 すべては前任者アーサー・ディヴィドソン師滞在の僅かな期間に端を発するのでした。 ウォルディング村に浸透する太古の驚異にひとり立ち向かうアンレル司祭の焦燥と諦念。 そして谷間の人々は牧神の祝福のままに自然回帰へと誘われるのです。 現在日本で刊行されているダンセイニの長編の中では、かなり気色の異なる作品。 村に起こる深刻な事態になすすべもない主人公の不安な独白という形で話が綴られているので、全体的に雰囲気が暗いです。単純な暗さではなくて、黄昏から夜に移り変わる僅かな間のなんともいえない暗さというべきでしょうか? だからダンセイニ作品の魅力である文章表現の美しさはいささかも損なわれてはいません。 ダンセイニ卿には現代文明(科学や機械)や人工物がお気に召さないところもあり、彼の作品にはそういうものに対する皮肉が盛り込まれた話もあります。 文明の敗北と自然の勝利を描く「牧神の祝福」は、その観念のひとつの形なのかも。 |
ストーリー
月刊ペン社