エルフランドの王女

登場人物

私はこの本の題に示されている不思議な国の呼び名のせいで、読者がこの本を敬遠しないことを望んでいる。たしかに、いくつかの章はエルフランドについて語ったものであるが、その大部分においては、私たちの知っている野原の上の世界、イングランドのごくありふれた森や、ふつうの村や谷間のことを書いただけなのである。それらの場所は、エルフランドの国境いから、三十キロも四十キロもの距離なのだ。
ロード・ダンセイニ
 

 ――「エルフランドの王女」(沖積舎)序文より


魔の訪れを希望するアールの郷の評定衆の総意により、エルフランドの王女を連れてくることになった王子アルヴェリックさんは、魔女につくってもらった魔法の剣を携えてエルフランドへ赴きます。
魔法の剣の力で数々の障害を打ち破った彼は、見事エルフランドの王女リラゼルさんを連れ帰り妻に娶ります。普通のファンタジーならここでハッピーエンドですが、「エルフランドの王女」はここからが本編です。

ふたりのあいだに子供オリオンも誕生しましたが、人間の世界との慣習のすれ違いが人の王子とエルフの王女とにひずみをうみます。そしてエルフ王の強大な呪文を開くことによってリラゼルさんは疾風の如くエルフランドへと戻ってしまいます。
アルヴェリックさんは妻を取り戻すため、消えてしまったエルフランドを探す遙かな旅に出ることに。そのお供は六人の狂人。
彼が旅立って十年が過ぎた頃、アールの郷では十数歳に成長したオリオンさんが一匹のトロールと出会うことによって大きく事態が急転していきます。
アルヴェリックさんの虚しく儚い旅、人の世界を想いだして焦がれるリラゼルさん、アールの郷に魔をもたらすオリオンさん、――やがてエルフ王の最後の大いなる呪文がすべてを収束させるのです。

「エルフランドの王女」はダンセイニの長編の中でももっとも綺麗なファンタジィであり、人間たちの様々な願望、精神の相克を描いた深い内容を秘めた作品といえます。

※参考文献
「エルフランドの王女」(沖積舎)

■アルヴェリック

本編の主人公。アールの郷の王子。

リラゼルさんを連れてくるときには役に立った魔法の剣が、探し求めるときはあだになってしまうというところが、すごく皮肉だと思います。
後半、嫉妬に狂ったお供二人に主従逆転されてしまうのが哀れでなりませんでした。


■リラゼル

エルフランドの王女。本編のヒロイン。

母親と同じく人の世界で歳をとっていく……という結末にならないのがこの作品のひとつの提示なのかもしれません。


■オリオン

アルヴェリックさんとリラゼルさんの子。後半の主人公的存在。

多くの登場人物が憂いや苦悩を抱えるなか、このひとだけは楽しさのほうが多かったように思えます。


■ジルーンデレル

アールの郷の近くに住む魔女。エルフ王とも面識があります。

魔法の剣をつくるときの描写がとても凝っていて印象に残りました。


■エルフ王

エルフランドの王。リラゼルさんの父。

結局、三つの強大な呪文は、すべて娘のために使われたことになるんですよね。


■ルルル

エルフランドの妖精トロール。人の世界に興味を持ちます。

とにかくユーモラスな造形がすてきです。性格や行動も味があって面白いです。
ユニコーンがやっかみの的というのは新鮮かも。


■アールの評定衆

アールの人々を代表する十二人の長老たち。

郷を有名にしたいため魔の訪れを求めますが、魔の到来が実現すると恐れおののく勝手な人たち。


■フリーア

アールの郷の聖職者。あらゆる魔を敵視しています。

エルフ王の最後の魔法も、このひとの聖堂と周辺には効果が及ばなかったのはある意味すごいと思います。


■ニヴとゼンド

アルヴェリックさんのお供六人の中で最後まで残った二人。

自分の夢想を遙かに凌駕する本物の幻想に対する嫉妬と口惜しさは考えてみると可哀想かも。

ストーリー

沖積舎

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