魔法使いの弟子

■ラモン・アロンソ

フルネームはラモン・アロンソ・マシュー・マーク・ルーク・ジョン。
本編の主人公。財政が枯渇してきた<塔の岩森>の主の息子。

普通の人です。思考も行動もとにかく普通の人。性急な若者代表という感じです。
そのため師匠とは考え方がまったくかみ合いません。だからこそ、その差異が際立って、それが両者の立ち位置と表現を彩り、物語のだいじな要素となっています。
第三者視点でみるから彼の若い浅はかさが目につくけど、もし実際にラモンさんの立場と状況だったらわたしも同じことしてるだろうなあと思うわけで。


■師匠

アラゴナの村の彼方にある森の中に住む魔法使い。
ラモンさんの祖父には大きな恩を感じているため、ラモンさんの弟子入りを認めます。

魔道の探求で数多くのことを学び、誤りだらけの世俗に見切りをつけた賢者で、その思考は常人とかけ離れて善悪を一種超越した雰囲気をまとっています。
いわば東洋の仙人みたいなものですが、ラモンさんとの取り引きのふしぶしでときおり人間臭い面も覗かせるあたりに愛嬌があります。


■アネモネ

魔法使いの家で雑用を任せられている掃除女の老婆。
本編のヒロイン。遠い昔、若気のいたりで自分の「影」を魔法使いに渡してしまいました。

魔法使いの話でヒロインが老婆、後半に若さを取り戻すなど、「ハウルの動く城」を思い浮かべてしまいます。ハウルの原作者がダンセイニの本作に影響を受けたのか気になるところだけど、たぶん無関係かなぁ。


■ミランドラ

ラモンさんの妹。器量よしで十五歳を過ぎたあたり。

本編の裏の主人公といっても過言ではないかも。
第一章で内面がほのめかされてますが、『惚れ薬』を手に入れてからが彼女の本領発揮。
中盤以降はミランドラさんを中心とした駆け引きを楽しめるかどうかでこの作品の評価も変わってくるんじゃないでしょうか。
真・女神転生Uのアヌーンさんを思い出してしまいました。


■ゴンザルボ

<塔の岩森>の主でラモンさんの父親。

一応は大人の賢さと狡さをもっていますが基本的には普通の人。
困窮にある財政のため、仕方なくグルバレスさんへ娘を嫁がせようとします。
三面の牧草地についてのグルバレスさんとの会話のやり取りが面白かったです。


■グルバレス

<塔の岩森>の隣の土地の小領主。三十五歳。

ゴンザルボさんから彼の娘との縁談を持ちかけられてその気になる欲深な人。
終盤になってミランドラさんの真意に気づきますが、もう時すでに遅し。
<影の谷>の公爵さんと縁があったのが運のつきというところでしょうか。


■<影の谷>の公爵

<影の谷>の二代目公爵。

「影の谷物語」の主人公ドン・ロドリゲスの息子ですが名前は出てきません。
過去作品の主人公の子供が『惚れ薬』の餌食になるなんてびっくりです。


■ヨゼフ神父

<塔の岩森>の近くに住む善良な神父。

魔法を敵視していますが、正しいことに使うならよしとゴンザルボさんが息子に託した目的を暗黙するなど、結構したたかで柔軟な面をもっています。
一人の若い旅人が、魔法使いの<森の家>を探し、山中をさまよい歩いていた。彼の城の財政は、もはや魔法に頼らねばならないほどの状態で、錬金術の神秘と影を代償にした取り引き、それが最後の切り札だった。しかし、彼の探し求めるその魔法使いは、恐るべき黒魔術の徒であったのだ!
静寂にして華麗、透明にして妖美な虹色の世界が、ケルト民族特有の<黄昏の想像力>を駆使して描かれる、今世紀最大の幻想作家の傑作。


 ――「魔法使いの弟子」ちくま文庫版の裏表紙あらすじより


このあらすじ、ちょっと内容を勘違いされそうな気がしないでもないなあ……と思ったり。
これだけを読むと師事した魔法使いが黒魔術の悪役で、主人公はその危機をどう脱するのかみたいな話に思えちゃいます。
静寂にして華麗、透明にして妖美な虹色の世界、というのは納得できるけど。

ストーリーは「妹の結婚に必要な持参金のため魔法使いに弟子入りして錬金術を覚えてきなさい」と父親に言い渡された主人公が、魔法使いに師事することによって始まります。
錬金術を教えてもらう代償として「影」を要求されるんですけど、この、普段は気にもかけずありがたみも感じない自分の「影」が、どれだけ大切なものか、失ってはじめてわかるという展開が秀逸です。
主人公が、同情をおぼえた掃除女の老婆の「影」を取り戻してやりたいと思うようになり、途中で妹から「黄金はいらないから『惚れ薬』が欲しい」という便りをもらってから、話の流れは奇妙に変わり、やがてひとつの大団円へと収束していくことに。
とにもかくにも、ラストシーンの美しさは特筆ものです。

ちなみにこの作品の原題は直訳すると「掃除女の影」。
話の内容的には正しいけれど、こればかりは「魔法使いの弟子」というタイトルにした訳者さんのセンスが光っていると思います。

ストーリー

ハヤカワ文庫                      ちくま文庫

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※参考文献
「魔法使いの弟子」(ちくま文庫)

登場人物

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