〜秘めたる思い・届く日を夢見て〜


〜6月9日・PM10:20〜

その夜、ひなたはどこか浮かない顔をして今日の分の日記を書き綴っていた。

【ひなたの日記】
6月9日
お兄ちゃんがみなもお姉ちゃんと映画を見に行った。
みなもお姉ちゃんにたいして、前の日までお兄ちゃんはひどく気を遣っていた・・
でもうらやましいなぁ、みなもお姉ちゃん・・・
お兄ちゃん、ひなたに対してはひなたがなにかするたびに、
いつもチョップとかしてくるのに・・・
ひなたにも、もう少しみなもお姉ちゃんみたくやさしくしてほしいな・・・

ひなたはそこまで書くと一つ小さくため息をつき、ハッとして首をブンブンと振った。

「だめだめ! みなもお姉ちゃんは、ひなたにとってもお兄ちゃんにとっても大事なお姉ちゃんだもん! こんなこと日記に書くのはいけないよね・・」

(パタン)
ひなたは書いていた日記を閉じると、ベッドに横になった。

「でも、ひなたもお兄ちゃんと久しぶりにどこかお出かけしたいな・・・」

ひなたは目を閉じると足をパタパタさせながら思案し始めた。
しばらく考え込んでいたが、何事かひらめいたのか顔を上げた。

「・・・そうだ! たしか来週の日曜日から、映画館でひなたの好きな映画の最新作の上映が始まるんだったよ!」
「それお兄ちゃんと見に行ってみようかな・・・でもお兄ちゃんってあの映画好きだったかなぁ・・」
「ううん、そんな心配してたら駄目だね! まずは実行あるのみだよ〜〜〜っ!」

(コンコン)
真「ひなた、どうしたんだ? 大きな声出して」
ひなた「うにゃ!!! な、なんでもないよお兄ちゃん! 気にしないで!」
真「そうか? ならいいが、早く寝ろよ」
ひなた「は〜い。わかってますよーだ」

真の足音が遠ざかっていくのを確認して、ひなたはほっと胸をなでおろした。

「ふうぅ、危なかったぁ。いい考えだったからひなた思わず叫んじゃったよ」
「とりあえず、月曜日にでもお兄ちゃんに日曜日の予定があるかないか聞いてみようっと」

ひなたはそう決めると布団の中に潜り込んだ。

「・・・なんだか、ひなた日曜日がくるのが楽しみになってきたよ!」
「まだ決まってないけどお兄ちゃんと二人で・・・・・か、楽しみだなぁ。それじゃ今日はもうおやすみだね。」

(パチン)
部屋の電気が消され、ひなたは真と二人街中を歩く姿を心に描きながら眠りへ落ちていった・・・


〜6月10日・AM6:55〜

その日の朝は雲ひとつない気持ちいいほどの快晴だった。

「えへへ・・・お兄ちゃん・・・・」
眠っているひなたの顔は、幸せな夢を見ているのかひどくにやけていた。

(コンコン)
真「おーい、ひなた朝食できたぞ」
ひなた「うにゅう・・・」

真に身体を揺らされてもひなたはまったく起きる気配を見せなかった。

真「おい、ひなた起きろ。飯が冷めるぞ」
ひなた「うにゅう・・・お兄ちゃん駄目だよ・・そんな事」
真「どんな夢見てるんだよ・・・まったく、このままじゃ埒が明かないか・・仕方ない」

まったく起きる気配がないひなたに真は普通に起こすのを諦め、必殺のチョップをひなたの頭にお見舞いした。

ズゲシッ!!
音を立ててチョップがひなたの頭に命中、ひなたはその衝撃でベッドから起き上がった。

ひなた「うにゅ!!!」
真「おい、ひなたいい加減に起きろ。朝飯できてるぞ」
ひなた「うにゅぅ・・え、あれ? ここは?」
真「ここはって、お前の部屋だろうが・・・まだ寝惚けてんのか?」
ひなた「なんだ、夢かぁ・・・・いいとこだったのにぃ」
真「どんないい夢見たかは知らんが、早く降りてこいよ。朝飯が冷めちまうぞ」
ひなた「は〜い。」

真が部屋を出ていった後、ひなたは服を着替えようとしてはたと思い立った。

「・・・忘れるとこだったよ。お兄ちゃんに今週の日曜日の予定聞かなくちゃ・・」
昨日決めていたことを改めて確認すると、服を着替えて台所へと足を運んだ。


台所で朝食を食べながら、ひなたは真に話を切り出した。

ひなた「ねぇ、お兄ちゃん」
真「ん、どした?」
ひなた「えっとね、お兄ちゃん今週の日曜日空いてるかなって」
真「別に何もないが、どうしたんだ?」
ひなた「うん、えっとね・・・映画見に行きたいと思って」
真「映画ね・・何を見るんだ?」
ひなた「ひなたはね・・・」

(ピンポーン)
その時、ひなたの声を遮って玄関のベルが鳴った。

真「ん、みなもが来たのか。ひなた、その話は帰ってきてからだな」
ひなた「う、うん・・・そうだね」
真「よしっと、食器片付けて行くぞ」
ひなた「うん」

片付け終わった後、ひなたたちがカバンを持って玄関へと向かうと待っていたみなもが笑顔で挨拶をしてきた。

みなも「まこちゃん、ひなたちゃんおはよう」
真「おう、おはようみなも」
ひなた「おはよう、みなもお姉ちゃん」
真「さて、それじゃ行こうか」
みなも「うん」
ひなた「うんっ、行こう行こう!」

3人は連れ立って駅へと向かった。それはいつも通りの光景。3人が仲良く歩く姿・・・


〜夕方、丘野宅・台所〜

真「さて、朝の話の続きだけど映画見るといってもひなたは何見るんだ?」
ひなた「えっとね・・・『クボタダモン』!」

ズゲシッ!!
まさに神速とよべるほどの速さでひなたの頭にチョップが決まる。

ひなた「うにゅ・・・」
真「却下だ」
ひなた「うにゅぅ、お兄ちゃん痛いよ・・・」
真「お前先週も言っていたぞ、その映画・・・それを俺と一緒に見に行きたいのか?」
ひなた「うにゅ!! ち、違うよ、さっきのはほんの冗談だよぅ。ほんとに見に行きたい映画は、『戦場の女達W 〜血みどろの戦いの果てにあるのは〜 』だよ〜!
真「そのシリーズか・・・確か今度最新作が上映されるんだっけか・・・」
ひなた「お兄ちゃん、それでいいかな? だめならひなた、他の奴でもいいけど?」
真「俺は別にいいぞ、ひなたが見たいなら俺も付き合うさ」
ひなた「本当!? 嘘じゃないよねっ?」
真「嘘ついてどうする。俺はこれでも正直者で通ってるんだぞ」
ひなた「やった〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

ゴンッ!!!
思わず飛び上がったひなたはいかにも痛そうな音を立てて天井に頭をぶつけた。

ひなた「うにゅっ!! ・・痛いよぅ・・・」
真「おまえなぁ、喜ぶのはいいが天井に頭ぶつけるほど飛ぶなんて、はしゃぎすぎだぞ・・・」
ひなた「だって・・・本当にうれしいんだからしょうがないよ・・・」
真「まったく・・・まぁ、とりあえず今週の日曜日、映画見に行くんだな?」
ひなた「うんっ!!」
真「じゃ、それで決まりだな。ひなたが言いだしっぺなんだからな、忘れるなよ」
ひなた「もちろん忘れないよ。楽しみに待ってるからね、お兄ちゃん」


【ひなたの日記】
6月10日
お兄ちゃんと一緒に日曜日に映画を見に行くことが決まったよ!
久々にお兄ちゃんと二人きりでお出かけか・・・嬉しいな。
早く日曜日にならないかなぁ・・・ひなた楽しみだよ。

約束の日曜日が、お兄ちゃんとひなたにとって最高の日になるように・・・
それに、今日の夢がいつか現実になるようにひなたがんばるよ!

ひなたの大切なお兄ちゃん、これからも一緒にいようね。


〜6月16日・早朝〜

「ついに、ついに、この日が来たよ!! 日曜日〜〜〜〜〜〜〜!!」

ひなたはぐっと拳を握ってひかえめに叫んだ。

「朝食も張り切って気合255%で腕によりをかけて作ったんだから、味もいつも以上だよ!」

テーブルに並べられたいつもよりも手をかけて作った朝食を見て言う。

「うん!! この調子で、ひなた今日も一日ファイトだよ!! あ、朝食冷めちゃう前にお兄ちゃん起こしてこなくっちゃ・・」


〜真の部屋、扉前〜

(コンコン)ひなた「お兄ちゃん起きてる〜?」

・・・・・・・・(反応なし)

(コンコンコン)ひなた「お兄ちゃん、朝だよ〜〜〜?」

・・・・・・・・・(やはり反応なし)

(コンコンコココン)ひなた「お兄ちゃん、朝だよ〜〜〜〜〜〜!!!」

(ドタドタ、バタン)
ズゲシッ!!

真の神速のチョップがひなたの頭に炸裂する!

ひなた「うにゅっ!!!!」
真「いったいどうしたんだ?! こんな朝早くに・・・」
ひなた「うう、コブできてるかも・・・痛いよお兄ちゃん・・」
ひなた「もう、朝食の用意できたから、ひなたお兄ちゃんを起こしに来ただけなのに・・・」
真「起こしに来たって・・・今の時間見たのか? まだ5時半だぞ?」
ひなた「えっ、5時半? ・・・お兄ちゃん時計見せて」
真「ほれ、見てみろ。ちなみにこの前みたく、時計の電池は切れてないから安心しろ」
ひなた「うん・・それじゃ今の時間はっと・・・えっ?」

時計を覗き込んだひなたの顔が凍りついた。

【5時52分17秒】

ひなた「うにゅ?! まだこんな早い時間だったの? お、お兄ちゃんごめん!」
真「だから言ったろ・・・まぁ朝飯できてるんならいただくけどな」
ひなた「う、うん・・・」
真「次に起こすときは、ちゃんと時間確認してから起こしてくれ・・・とりあえず着替えたら行くから先に行ってろ」

真が部屋へと戻って行った後、台所へと向かっていたひなたは少ししょんぼりとなっていた。

「まさか、まだこんな朝早い時間だったなんて・・・ぜんぜん気づかなかったよ」
「ひなたのせいでお兄ちゃんには悪いことしちゃったな・・・」
「こうなったら、汚名返上のためにも今日のお出かけは普段よりもっともっと楽しんでもらえるような一日にしなくちゃね」

気分を新たにした所で、ひなたはふたたび歩き始めた。


〜数時間後、商店街・映画館前にて〜
その日は気持ちいいほど晴れ渡った晴天だった。
まさに絶好のお出かけ日和、といったところか。

"路面電車に揺られて、たどり着いた映画館・・・ついに来たよ・・・運命の時が!
・・・大げさすぎかな?"
"ううん、今日はおにいちゃんと一緒にいっぱい楽しまなきゃ!"
"よーし、ひなた気合入れていくよ〜〜〜!!"

ひなたは心の中でそう叫びつつ、真と共にチケットを買うため列へと並んだ。

ひなた「うわ〜、朝早いのに皆並び始めてるねぇ。早く来て正解だったねお兄ちゃん」
真「ああ、みなもと映画見にきたときも人が多かったが、今回はそれと同じくらい、いやもしかしたらそれより少し多いかもな」
ひなた「お兄ちゃん、ひなた達も早く並ぼうよ」
真「ああ、そうだな」


〜映画館内にて〜

真「ふう、何とか隣同士の席、確保できたな」
ひなた「うん。ひなた最初、席取れるかどきどきだったよ」
真「そうだな。お、始まるぞ」


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〜『戦場の女達W 〜血みどろの戦いの果てにあるのは〜 』〜

【内容】
平成××年、蛇流組と秋原組という二つの組が対立を深めていた・・・
そして、いつしか二つの組は戦争状態に陥っていく・・・・・
その中、片方の組に所属する姉妹が、自分達の立場に苦しみ悲しみながらも、しかし自分達のため、自分達を育ててくれた組の頭のためにと、血も涙も捨てて戦場に立った・・・


※このシリーズは組同士の争いの中で翻弄されつつも、自分の信念を貫き通す女達の姿が、多くの女性達の共感を呼び大ヒットを記録。今回の作品も含め、4作目まで作られている人気シリーズである。
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ひなた「すっごく面白かったね、お兄ちゃん!」
真「ああ、久しぶりに見たが、あの啖呵きってる場面が印象に残るな」
ひなた「そうだね〜、ひなたもう興奮しっぱなしだったよ!」
真「面白かったのはわかるが頼むから、町のど真ん中で大声出して騒ぐなよ・・・」
ひなた「うにゅ! わかってるよぅ・・」
真「さて、映画も見終わったしまだ昼間ちょっと過ぎか・・・」
ひなた「ねぇお兄ちゃん、近くで何か食べにでも行こうよ」
真「そうだな・・・・」


"う〜ん、こうやってお兄ちゃんと二人で町を歩く姿って、他の人からはどんな風に見えるだろ?" 
"もしかしたら、恋人同士でデートしているように見えるかな? それともただの仲のいい兄妹?" 
"お兄ちゃんに聞いても、お前とじゃそんな風に見えないって返ってきそうだけどね・・・"
"ひなたにお兄ちゃんが文句も言えないほど魅力があったら、お兄ちゃんもひなたの事、もっと大切にしてくれるかな・・・?"
"そんなすぐに変われたら、苦労はしないけど・・"
"時間はいっぱいあるからね、これから・・・"

そんなことを考えながら歩いていると、ふと見知った顔がひなたの視界に入ってきた。

ひなた「・・・あれ?」
真「ん? どうしたひなた。珍しいものでも見つけたのか?」 
ひなた「ねぇお兄ちゃん。あそこにいるのって霞お姉ちゃんじゃない?」
真「え? ああ、あれは確かに紫光院だな。何してるんだろう、あいつ」

"確かに、ベンチに座ってるのは霞おねえちゃんだね。"
"う〜ん、霞お姉ちゃんさっきから時計ばかり見てるよ・・・"
"誰か待ってるのかな? 思い当たる人といえば・・・"

ひなた「勤お兄ちゃんでも待ってるのかな?」
真「そうか? ・・・って言ってる傍から向こうから走ってくるのは・・・」

"う〜ん、どこからどう見たって勤お兄ちゃんだよね・・・"
"なにかあったのかな?" 

霞「遅いわよ勤。時間とっくに過ぎてるわよ」
勤「はぁはぁ・・・いきなりわいを呼び出しよって・・・何の用なんや、紫光院?」
霞「あんたねぇ・・・この前、今日買い物に付き合ってって言ったでしょう?」
勤「わいはそないなこと約束した覚えないで・・・はぁ、せっかくの休日どないしてくれんねん・・・」
霞「あんたねぇ・・・"暇だからわいは別にええで"とか言ってたくせに・・・」
勤「ああ、そういえばそないなことも言うとったな。もう暇すぎて、わいそないな約束したなんて、すーっかり忘れとったで」
勤「まぁ、ホントのところは、紫光院の買い物に付き合うのが面倒なだけやったんだがな。いやぁ、すまんすまん。このとおりや、許したってぇな(にやにや)」

"勤お兄ちゃん、本音が出てるよ・・・それに謝ってないよ、それ・・・"

霞「勤・・ふざけるのもいい加減にしなさいよ・・・(ぴくぴく)」
勤「・・・!! ま、待てや紫光院。さっきまでのは、ほんの小粋なジョー・・・・ぐほぁぁぁぁぁぁ!!」
霞「・・・度が過ぎると、そのうち死ぬわよ?」


ひなた「・・・霞お姉ちゃん、いつものことだけどすごいね・・・」
真「いや、あの場合勤の奴が余計な事を言うからだと思うが・・・」
ひなた「けど勤お兄ちゃんも毎回懲りないよね・・・でもあの二人らしいというかなんというか・・・」
ひなた「うーん、とりあえず声かけてみようよお兄ちゃん」
真「ああ、そうだな。挨拶ぐらいしとくか」

ひなた「霞おねえちゃーん!!」
霞「ん? あら、ひなたちゃんに丘野君。どうしたの?」
真「いや、ちょっとひなたと映画見に来てたんだが、紫光院は?」
霞「私? ちょっと買い物に行こうと思って。」
真「買い物?」
霞「そう。それで、ここにのびてる馬鹿にも手伝ってもらおうと思って呼んだんだけど、ね・・・」
真「そ、そうか・・・おっと、それじゃ俺たちはそろそろ行くよ。行くぞひなた」
ひなた「あ、お兄ちゃん待って。あ、それじゃ、霞お姉ちゃんまたね」
霞「ええ、それじゃねひなたちゃん。ほら勤、いつまでものびてないで行くわよ」
勤「ぅぅぅ・・・紫光院、お前は鬼かいな・・・」


ひなた「・・・勤お兄ちゃん、霞お姉ちゃんに引きずられてっちゃったね・・・」
真「ま、いつも通りの光景だな・・・」
真「さて、俺たちも行くか?」
ひなた「あ、うん!」


"でも、こうしてお兄ちゃんと歩いていると、楽しい時間は過ぎていくのが本当に早いなぁ・・・"
"まるで風が流れるようにね・・・でも今日があるなら、明日もある"
"これからも変わらずに・・・ずっと・・・"

ひなたは真に向き直って言った。

ひなた「ねぇ、お兄ちゃん」
真「ん、どした?」
ひなた「人生まだまだこれからだよねっ」
真「? いきなりどうした?」
ひなた「えへへ、内緒」
真「変な奴」

ひなたの顔にはまるでひまわりのような満面の笑みが浮かんでいた。

今日も町には風が吹く・・・昔から変わらぬ風が・・・
そして、町を歩く兄妹たちの間を、一陣の風が通り過ぎた・・・

(完)


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